論文サマリー: Bolin, 1986, Disaster Impact and Recovery: A Comparizon of Black and White Victims  

Robert Bolin, 1986, Disaster Impact and Recovery: A Comparizon of Black and White Victims, "International Journal of Mass Energencies and Disaster"

 

復興の社会的な格差などの議論の際によく引用されている論文です。

自分の論文に引用するために読んだのでサマリーを作ってみました。

 

サマリー

Intro

アメリカにおけるBlack / White victims 間での復興の違いを分析

家族の復興はそれまで研究されてきたが、人種/エスニシティに着目した分析は行われてこなかった

 

Previous Research

災害時におけるマイノリティの研究では、

  • 警報・避難行動
  • マスメディアの影響
  • 避難所での適応
  • 住宅再建時の人種/エスニシティの居住地域上の統合/分離

また最近の研究ではソーシャルサポートの効果についても検討されてきている

 

Family Recovery

Family Recoveryは3つの要素で概念化される

  1. housing recoery 住宅再建
  2. financial recovery 経済的復興
  3. emotinal recovery 感情的な復興

本研究では 2と3に着目して分析

 

Method

判断分析で分析を行う

経済的復興と主観的ウェルビーイングについて5件法(0~4)で尋ねた

そして、4を復旧・復興済み(complete recovery), 3を復旧途上(intermediate recovery), 0~2を低復旧・復興(low recovery)とカテゴライズ

black, whiteのそれぞれのサブセットを使って、変数をステップワイズ投入することで、black, white victims の復旧・復興の予測因子の違いを検討

 

Analysis

2つの従属変数の3つの値(complete recovery, intermediate recovery, low recovery)を分ける決定因を分析

係数が0.5以上のものを考察

 

 

Discussion

  • black victims において、経済的復興に対して、(公的な)金銭的・住宅援助が重要な予測要因となっていた。その一方で親戚間での援助は(経済復興に対して)負の効果を持ってた。
  • 経済的復興については、black/white victims 間で予測因の違いはそれほど大きくなかった
  • いくつかの違いが存在していおり
  1. 違いとしてはwhite victims においては、SBAローンは経済復興の重要な予測因となっているが、black victims においてはそうではない⇒black victims においてはローンが利用しにくい⇒black victims の復興の遅れを引き起こす
  2. black victims とは反対に、white victims では、primaly groupでの援助が経済的復興にプラスの影響を与えていた⇒支援する側の処分可能な所得の量の違いによるものである⇒社会的経済的な構造上の問題
  • 主観的ウェルビーイングについては、black victimsにとっては、ソーシャルサポートと(被害による)心理的インパクトが大きな規定要因となっていた
  • white victims にとっては、ソーシャルサポートが規定要因となっているのは少ない
  • white victimsとっては、家族のケガ、知り合いのケガ、死亡は、心理的復興に大きい影響を与えていた
  • 全体的に社会経済的変数は大きな影響は、直接的に影響はなかった
  • その一方で、black victimsにとっては、小さい子どもの数が経済的復興に影響を与えてた。これらは経済的ニーズと関連していることから、社会経済的要因も災害からの復興を考える上で欠かせないだろう

 

感想

よく引用されている印象があったので、まとめてみました

1986年という、おそらく日本では災害に対するソーシャルなアプローチによる研究は非常に限られているであろう時期に、こうした研究(とくに計量的な分析を用いて)がされているのは、さすがって感じですね

非常におもしろいのは、現在の災害社会学の中心的概念であるVunerability(脆弱性)という言葉がでてきていない点でしょう。

この研究がある種 Vunerabilityなどの理論モデル構築の基礎となったということなんだろうと思います。

分析によってやりたいことも明確で、かつ分析結果と結論の間の距離が狭いので非常に読みやすいです

 

(ただフォントがやや読みにくい・・・)

 

疑問点

従属変数2つ(経済的復興と主観的ウェルビーイング)を恣意的にカテゴライズする意図が不明。よほど変な分布でもしていたのだろうか?連続変量でいいのでは?